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第22回小説の虎の穴 佳作発表

第22回小説の虎の穴 佳作発表

課題「近未来小説」

  怒りの矛先
                                 大原廣子

「及川先生でいらっしゃいますね」
 医局に戻ろうとしていた俺は、ひどく小柄な中年の男に呼び止められた。
「わたくし、移植コーディネーターの藤崎と申します。少しよろしいでしょうか」
 ……移植コーディネーターだって? とっさに俺は警戒した。このところの彼らの暴走は、医局でも話題になるほどだ。
「突然申し訳ありません。じつは、先生に助けていただきたい患者がおりまして……」
 男は俺の様子に気づいたのか、すかさず話を切り出す。「助けて……」の言葉に思わず反応した俺は、結局、男の話を聞くはめになってしまった。
「手短にご説明しますと、その患者さんは十八歳のとき腎不全と診断されまして、もう十年近く透析治療を続けているのです。透析の辛さは申し上げるまでもありません。ただ、彼はご家族の協力で二度ほど移植の手術を受けました。ですが、なぜか拒絶反応が強くて二度とも失敗に終ったのです」
 男は思いのほか饒舌で俺に口を挟ませない。
「ところが最近になって、彼の遺伝子が特殊な反応を示すことが報告されたのです。彼のドナーには通常の適合検査のほかに、DNAの適合が不可欠だったわけです。我々は改めてドナー探しを開始しました。そうして、やっと昨日、あなたがヒットしたのです。これで彼は救われます」
「はあ?」
 俺は藤崎を凝視した。この男は、俺に、腎臓をひとつ差し出せと言っているのだ。何がヒットだ、と言いかけてはっとした。
 俺がDNAの検査を受けたのは、ちょうど二週間前だった。
『ドクター諸君。世界に遅れをとってはならん! DNA検査を日本に根づかせよう!』
 そんな医師会の通達に発憤したからだ。藤崎の話が本当なら、俺のデータは移植コーディネーターに渡ったことになる。
「あんたたち、個人の情報を勝手に使っているのか?」
 俺の声は震えた。
「おやおや、我々はただ、あなたたち医師会が主張する『臓器移植の自由化』に協力しているだけですよ」
 こともなげに言い切る藤崎に、俺はあ然とした。
「はあ? 履き違えもいいとこだ。倫理に則ってこその移植じゃないですか。第一、ぼくは医者ですよ。ヒットしたからドナーになれって、おかしいでしょ」
「おや、それは聞き捨てなりませんね」
 藤崎はにやりとした。
「先生は外科医でしたよね。確か、移植の手術にも参加しておられる。つまり、他人様にはドナーをすすめて、自分は辞退する。それこそ、おかしくありませんか?」
 ……屁理屈もいいかげんにしろ。俺はようやくその言葉を呑み込んだ。
「何でもよくご存知だ。たぶん、専業主婦の妻と三歳の息子がいることも調査済みなんでしょうね。そうですよ、ぼくには守る家族がある。ドナーなど論外です。この話はもう終わりです」
 俺は藤崎に背を向けた。早く切り上げて、今晩の当直に備えたい。だが、藤崎は一段と声を上げた。
「ああ、それなら心配に及びません。院長先生が、片腎でも支障のない場所を用意してくださるそうです」
「院長?」
 俺は未来が急に歪んでいくのを感じた。
「あんた、院長に話したのか?」
「はい、たいへんご理解のある方で……」
「冗談じゃない。おれはドナーにはならない。そう言ってるだろ」
「ほおー、いいんですか? 先生の今のお話、世間に漏れたらえらいことですよ」
 俺は「世間」という言葉の前に沈黙した。今の日本が物騒なことくらい、藤崎に言われなくてもわかっている。五年前の九月八日、東京オリンピックが決まったあの瞬間から世の中は変わったのだ。「オリンピックを成功させよう」「最高のおもてなしをしよう」「美しい国日本」「助け合いの国日本」……、巷にあふれるキャッチコピーは日本を高揚させ団結させた。けれど、それ以上に凄まじかったのは外れた者への制裁だった。
 制裁は日増しに熱を帯びている。俺が今ドナーを拒んだら、藤崎は世間に俺を売るだろう。そうなれば、俺はおしまいだ。日本人らしからぬ医者として制裁されてしまう。
「……お察しします」
 一瞬伏し目がちになった藤崎に、俺ははっきりと悟った。人はこうして堕ちていくのだ。俺は冴え冴えとしていく頭の中で、藤崎を道連れにすることばかり考えていた。
                                 (了)


懲役千年の刑
                                 川越敏司

 人間って奴は恐ろしい刑罰を考え出すものだ。
 あの経済危機以来、街には失業者があふれ、犯罪は増加の一方。刑務所の数が足りない上、国の財政は破綻寸前で監獄を維持するための予算が不足していた。
 おまけにその日の暮らしにも困っているルンペンどもは、この寒空の下で残飯をあさるよりも、温かくて食事に困らない刑務所の方がましだと考えて、つまらない犯罪に手を染めている始末。監獄に収容される人数は軒並み増加の傾向にあった。かといって、そんなろくでもない犯罪者たちを死刑にはできない。人権がまだ尊重されている時代だった。
 よく連続殺人犯に対して、懲役二五〇年といった量刑の判決が出ることがある。だが、たとえ二五〇年間牢獄に繋がれるべき罪を犯したとしても、人間の寿命は長生きしてもせいぜい百年といったところだ。被害者の遺族にしてみれば、犯罪者が十分な償いをする前にこの世を去るのは許せないことだろう。それに、模範囚ならば仮釈放を許されることもあるし、看守を抱き込んで刑務所の中で楽園のような生活を楽しんでいる奴だっている。だから、そんな判決は無意味なものだった。
 そこで、奴らはとんでもない発想の転換を行った。それは、犯罪者をその懲役刑の年数分、冷凍冬眠してしまうというものだった。それで監獄の維持費用も激減できるらしい。
 仮に自分が千年後の世界にいきなり飛ばされたと想像してみてほしい。夢の未来旅行だって? とんでもない! 家族も友人もとっくに亡くなっていて、何もかもすっかり変貌した世界に孤独に放り出されるんだ。そんな世界でいったいどうやって生きていけばいい? 態のいい島流しだ。まさに生き地獄というものだろう。
 また、冷凍冬眠技術は比較的発展しているとはいえ、まだ決して安全なものとはいえない。蘇生に失敗するリスクは少なからずある。その場合、囚人は永久に眠り続けることになる。そういう意味では、事実上、囚人に死刑を宣告しているようなものだと死刑廃止論者は反対したらしい。だが、そんな正論を黙らせるほど、アメリカは危機的状況にあった。
 そしてこのオレは、大量の人命を奪い、アメリカ全土を揺るがしたテロの首謀者として懲役千年の刑を受け、この冷凍冬眠刑に処せられることになっていた。
 だが、オレは無実だ。奴らは次々と物的証拠とやらをねつ造して、まんまとオレを凶悪なテロリストに仕立て上げた。陪審員たちは、スラムに生まれ育ったオレの言うことに聞く耳を持たなかった。オレは人類全体の罪を背負わされたような気がした。
 判決後、家族と面会する間もなく、オレはアラスカに移送されて、冷凍冬眠機に押し込まれた。麻酔が効いてくると、次第に瞼が重くなってきた。さよなら二一世紀。千年後の地獄でまた会おう。
 
 男が目覚めたオレの顔を覗き込んでいる。「救世主のお目覚めだ」とそいつが笑みを見せる。
「体調はどうです、歩けますか?」
 ぎこちない英語で、男はオレにこの千年後の世界のことを話してくれた。
 アメリカは巨額の財政赤字を抱えて事実上破産した。それに代わってヘゲモニーを握ったのは中国だ。世界中の核物理学者を破格の給与でヘッドハンティングした奴らは、国連の査察をこっそり逃れて大量の核兵器を製造していた。こうして世界一の核保有国になった中国は、アメリカ亡き後、世界の覇者となったのだそうだ。
 男に案内されて街に出ると、至る所に漢字が満ちあふれている。いまや英語は死語になりかけていた。だが、世界各地に散らされたアメリカ人たちは、密かに自分たちを解放してくれる救世主を待ち望んでいるのだという。
「それで、テロリストのオレに何の用だ」とオレは皮肉を込めて尋ねた。男はドギマギしながら答えた。
「わかってください。あなたを冷凍冬眠させる前から連中はすでに核開発技術の独占を進めていました。われわれの敗北は時間の問題だったのです。ですから、将来われわれが反抗を開始する時まで、多少強引でも、敵から目をそらし、博士の身柄を安全に確保する必要があったのです。」
確かにオレはスラム育ちだが、必死に勉強してプリンストン大を卒業し、核物理学では世界的な権威だった。そのオレをこいつらは政治のために利用し、何もかも奪ってオレの人生を滅茶苦茶にしたのだ。
「いいだろう」ふつふつとわいてくる怒りを押し殺してオレは言った。天涯孤独のオレに失うものは何もない。お望み通り、核兵器でこの世界を破滅させ、愚かな人類に道を示してやる。オレは救世主だからな!
                                 (了)

 




 「SATAN」
                                 星いちる

 それは、十五年前に初めての発症者が確認された病気だった。
 その病気とは、乳児期に発症し、十歳に満たないうちに百%の確率で死亡する恐ろしいものだった。
 重篤時には罹患者は高熱を出し、苛烈な全身の痛みを訴える。そのあまりの苦しみ様に、医療者達は強力な麻酔薬を投与する事しかできなかった。
 その恐ろしい病気は、SATANと名付けられた。
 医療者達は必死でSATANに罹患した乳児達に治療を施したが、甲斐なく子ども達は全員死んでいった。
 治療と共にSATANの研究が進められたが、まるで人間達の努力を嘲笑うかのように乳児のSATAN発症率はまたたく間に急増し、とうとう三年前には世界中の百%の乳児がSATANを発症した。つまり、地球上に生まれてくる子ども全員がこの病気で苦しみ抜いた末に十歳未満で死んでしまう事態になったのだ。
 世界中の子ども達の悲痛窮まりない泣き声が響いた。親達も絶望に悲嘆の涙を流した。
 何の薬も効かず、原因も解からなかった。
 医療者も研究者もさじを投げるしかなかった。
 彼らの進言を、各国首脳達は会談し討論した。そして、結論は下された。
 妊娠・出産の禁止、生まれても苦しんで短い生涯を閉じるしかない新しい生命を生み出してはならないという法律が制定された。
 多くの大人達は嘆き悲しんだが、少数の者達は安堵した。それは、我が子が苦しむ姿に自らも苦しみ抜き、もうそんなつらい思いをする者がなくなると考える人々であった。
 男女両性の断種が義務化された。
 違反は、終身刑が科刑される事になった。
 しかし、その法の目をかいくぐり、妊娠する女性達が後を絶たなかった。彼女達は必死で妊娠を隠し、密かに出産した。そして、赤ん坊達はSATANを発症した。
 病に苦しむ赤ん坊を発見された女性達は、口々に言った。
「だって……赤ちゃんが欲しかったんだもの! 自分の赤ちゃんが欲しかったんだもの!」
 法を犯した女達は子どもと引き離され、連行されていった。女達は悲痛な叫び声を上げたが、赤ん坊達の泣き叫ぶ声はもっと悲痛だった。
 そうして産み落とされてしまった小さな命は、医療者達によって全力で治療された。命を救う事のできない絶望的な全力ではあったが、医療者達はそうする他なかった。高熱を少しでも下げ、苦痛を少しでも緩和する、それが最大で最善の方法だった。
 今、地球上で健康な最も若い人間は、十五歳という年齢の子どもたちとその年下のわずかな幼齢者達だった。
 その十五歳の一人の少女が母親に訊いた。
「私達の世代で人類は途絶えてしまうのね。私達で地球には誰もいなくなってしまうのね」
 母親は、ごまかしたりせずにまじめにうなずいた。
「ヒトには……生物には、その種の運命を司るプログラムが書き込まれているの。私達の種はここで終わる運命だったのかもしれないわ」
「そうなの……」
 少女は、窓の外を見た。
 季節は初夏で、植物の緑は今を盛りに瑞々しく輝き、オレンジや青紫色の花々が咲き競い、太陽の日差しに万物は明るく照らされていた。
 ただ、小さな子ども達の笑い声だけが世界から消え失せていた。
 私達は間違った存在だったのですか……?
 少女は、窓の外の、世界の向こう側に向かって問いかけた。
 しかし、その問いに答える声はなかった。
 やがてその後百年足らずで人類は滅亡した。地上には、植物と、何も知らない動物達だけが残った。
 しかし人類滅亡から三年後、地球に大変動が起こった。
 巨大惑星が地球に衝突し、その衝撃で世界中の火山が次々に噴火した。火山は爆発的な噴煙を上げ、真っ赤なマグマが土石流と共に地表に流れ、何もかも焼き尽くしながら炎の中に飲み込んだ。
 阿鼻叫喚だった。そんな地獄の中に、人類が生き残っていなかったのは幸いと言えたかもしれない。
 地球は炎のかたまりとなり、やがて爆発した。地球の最後だった。
 太陽系という惑星群の中の唯一の青い星がこうして終焉を迎えた。後には何も残らなかった。
 私達は間違った存在だったのですか……?
 その問いに答える声はなかった。
                                 (了)

  




  大相撲の進む道
                                 家間歳和

 ゴツン、という鈍い音が響いた。
 肩と肩が当たる衝突音ではない。頭と頭がぶつかる衝撃音だ。当たり負けした大関ノブナガワが一瞬後退するが、すぐに持ち直し、横綱アポロングの胸元にもぐる。行司の声を消さんばかりの声援が国技館に轟いた。
 20××年、大相撲幕内力士に名を連ねる外国人力士は四分の三を超えていた。三役以上に限定すると、大関ノブナガワ以外は全て外国人力士という有様であった。
「大相撲の主要開催場所を海外に移したいと思っているのですが、どうでしょう?」
 一年前、日本相撲協会理事長フビライズが提案した。彼はモンゴル出身の元横綱だ。
「それはグッドアイデアだ。今や大相撲の主要ファンは圧倒的に海外だからね」ハワイ出身の元横綱理事が即座に賛同した。
「ちょっと待ってください。相撲は日本の国技ですよ。そんな無茶な提案は……」日本人理事の元小結ヒデヨシマが反論した。
「でもねぇ、日本での相撲人気は頭打ちでしょ。何か対策案でもあるのですか」フビライズの眼光がヒデヨシマを突き刺した。
 現在、日本相撲協会の理事長を含む理事の内、日本人はヒデヨシマ一人である。その他の委員や主任、年寄等、協会の職務分布は、モンゴル中心のアジア系が四割、ハワイを含むアメリカ系が三割、ヨーロッパ系が一割。そして日本人が残りの二割であった。
 日本人横綱が途絶えて久しい。近年では三役に入るものも少数だ。当然、親方になる力士も外国人が増加。その勢力は相撲部屋の外国人枠を自由化し、年寄株取得条件の日本国籍をも撤廃した。結果、日本相撲協会は急速な外国人化が進められることとなった。
「もう少し待っていただきたい。ノブナガワが……彼が横綱になれば、日本人の相撲熱は復活します」ヒデヨシマは、唯一の日本人大関ノブナガワの名を挙げて懇願した。
「十勝するのも怪しい大関ですよ。横綱は無理でしょう」フビライズの口角が上がる。
「いえ、彼はいずれ横綱になる器です」
「いずれでは困るのですがねぇ」
「か、必ず……、近い将来……」
「分かりました。では、一年だけ待ちましょう。六場所以内に昇進できなければ、新たな改革に着手しますので、そのおつもりで」
 かくて、日本の大相撲の進む道は、大関ノブナガワに託されることとなったのだ。
 ――国技館の声援が高まった。
 アポロングの右手がノブナガワのまわしを捕らえた。彼の右上手投げは無敵だ。まわしを取られることを避ける作戦で臨んだ大関であったが、横綱は一筋縄ではいかない。
 ヒデヨシマは祈る思いで土俵を凝視した。
 この一年、日本人親方総動員で、ノブナガワの指導に当たった。技術面はもちろん、精神面、体力面、作戦面と、あらゆる手を尽くし彼を鍛え上げた。ノブナガワも日本人の心意気を前面に出し、それに応えた。
 すぐに結果は出なかったが、五場所目、ついに十三勝二敗で準優勝。期限の六場所目に綱獲りの権利を得たのだ。
 通常の横綱昇進条件は、大関で二場所連続優勝またはそれに準ずる成績である。過去には二場所連続準優勝で昇進した例もあった。が、外国人勢力の色濃い横綱審議委員会の出した条件は、次場所の優勝に限定した。準優勝では昇進を見送ると発表したのだ。
 それが逆にノブナガワに火をつける。破竹の連勝街道が始まる。そして千秋楽。アポロングとの全勝相星決戦に持ち込んだのだ。
 ――国技館の声援が強まった。
 アポロングの右手の力がグイッと増した。ノブナガワは全力で左足を踏ん張る。親方衆に叩き込まれた上手投げ対策だ。全神経を左ひざに集中させた。と、その瞬間。横綱の右足がその左ひざに絡まる。全体重がのしかかる。足をロックされた大関の重心が傾く。横綱がさらにのしかかる。こらえきれない大関の身体が反り返る。そして、ゆっくりと、ゆっくりと、背中から、土俵に……。
 ノブナガワが優勝を逃した瞬間だった。
 割れんばかりの拍手が国技館を包んだ。その大半は、ノブナガワのここまでの健闘を称える、準優勝を称える拍手であった。
 が……ヒデヨシマの落胆は計り知れない。
「残念でしたね」フビライズが声をかけた。ヒデヨシマは微笑みだけで応えた。その微笑みに、フビライズも微笑みを返した。
「もう一場所、待ってもいいですよ」
 フビライズの発した予想外の言葉を、ヒデヨシマは瞬時に理解できない。
「彼の頑張りによる観客の盛り上がり。日本の大相撲再建の切り札として、大いに期待できます。今場所の準優勝で、綱獲りは来場所も継続です。待ちましょう。もう一場所」
 意味を理解したヒデヨシマの微笑みに、フビライズも微笑みを返した。
                                 (了)

  死んだツール

                                 くにさき たすく

 月曜の朝。マンションの一室でカトウ氏は叫んだ。
「マル起きろ! マル! マルちゃん! なんてこった。死んでるじゃないか」
 手に持つのは薄型のマルチデバイス。名称を略し、マルもしくはマルちゃんと呼ばれることが多い。かつては携帯電話、スマートフォンと呼ばれていたツールが進化したものだ。電話の機能が主だった昔に比べて多機能化し、名称から電話のニュアンスは取り払われた。この一台が、いまや生活の全てを担っている。所有者の情報が記録されており本人確認もできるし、旅行時にはパスポートの代わりともなる。そして、ケータイ、スマホ等と呼ばれていた過去のツールは人々の記憶から消えて、もう誰もその名を覚えていなかった。
 カトウ氏は汎用充電台から、残されたもう一台のマルを手に取った。一台のマルが死んだ(故障した)時のために、予備として二代目のマルを持っていた。先ほどのように声をかければ起動するはずだった。
「マル起きろ! ……ああ、こっちもか。まさか二台とも死ぬなんて」
 溜息をついて汎用充電台に二台のマルを戻す。同時に故障すると言うようなことはまれだ。カトウ氏は原因が他にあると考えた。
「充電が切れているのか」
 目をやったのは汎用充電台。大抵の小型電気機器はこの上に置くだけで充電ができる。フェイスタオル程度の広さの汎用充電台にはマルが二台と、マルの多機能をもってしても代用は出来ない小型の掃除機が置かれていた。
 掃除機の電源ランプは点灯していない。
「やっぱりそうか、充電ができてない」
 原因は判明した。汎用充電台の故障だ。
「まずいことになった。とりあえずサポートに連絡しなければ。ええっと連絡先は……」
 手に取ったマルは黙ったままだ。
「ああ! 充電が切れているんだった! しょうがない。直接電気屋に行こう」
 プラグを抜いて汎用充電台を抱える。
「充電台も予備を買っておくべきだったな」
 そう思いながら、カトウ氏はマンションの部屋から出て鍵を――
「充電が切れてる!」
 マルには鍵の機能もある。ボタン一つでロックし、開錠時にはマルに備わった指紋認証を使う。
「しょうがない。鍵は開けたままだ」
 カトウ氏は駐車場の車に向かった。そして車のドアを――
「充電が!」
 車のキーレスエントリーも機能しない。
「こうなったら――」
 カトウ氏はマンションに駆け戻り、自分が住む部屋の隣の部屋のチャイムを押した。
「すみません! 怪しい物ではないです! 充電台を貸していただけないでしょうか! ほんの数分でいいんです!」
 しばらくして、かすれたロック開錠の音と共にドアが開いた。中から出てきたのは老人。紳士的にカトウ氏を招き入れた。
「ああ! よかった! 天の助け! あなたは素晴らしい人格者だ!」
「いえいえ、単なる老いた技術者ですよ」
 老人は自身のマルの画面をカトウ氏に見せた。画面には――嘘をついている確率3%――と表示されている。
「先ほどの声を分析して、招き入れても問題ないと判断いたしました」
「そんなことも出来るのですか! 知らなかった。お詳しいのですね」
 老人はカトウ氏が手にしている汎用充電台を見ながら言った。
「充電台が故障したのですか? 私が見てみましょうか?」
「直せるのですか?」
「かもしれません」
 老人は金属でできた箱を持ってきた。ふたを開けるとそこにはカトウ氏が目にしたこともない道具がずらりと並んでいる。カトウ氏はその光景に目を回した。
 老人は充電台を一目見て言う。
「すこし表面が浮いているように見えます。それが原因かもしれません」
 老人は棒状の道具で、その四隅をあたった。そして充電台のプラグをコンセントに差し込むと、カトウ氏にマルを置くように促した。
「もう直ったのですか?」
 カトウ氏は訝しがりながらも、マルを置いた。小さな赤いランプが点灯する。
「おお! 直った! ありがとうございます! しかし素晴らしい道具をお揃えで。使いこなすのは難しいでしょう。これは何という物なのですか?」
「ああ。一般の方はご存じないでしょうか。我々技術者にはごく一般的な道具なのですよ」
 老人は道具を手に取って言った。
「これは『ドライバー』という物です」
                                 (了)

  さようなら、僕
                                 西脩一

「お目覚めかね? もう起き上がって結構」
 僕がベッドから起き上がると、丸椅子に座って机に片手をのせた中年の医者は続けて言った。
「一応確認するが、君の名前、年齢、職業、住所を教えてくれ」
「高須慎一、二十八歳。仕事はデータバンクエンジニア。住所は東京都板橋区××××」
「今は西暦何年?」
「2053年」
 よろしい、と腹の出た医者は電子カルテに何かしら打ち込んだ。そして、にんまりとした笑顔をこちらに向けて、帰りはあっち、というように指で示した。
 僕は外に出て、振り返った。灰色にくすんだ建物を見上げると、病院名の掲げられた看板があり、いくつか診療科が書かれている。その内の一つに、視線がいく。『記憶科』。そう、僕は記憶を消しに来たのだ。
 僕は歩きながら、僕自身の記憶を確かめた。施術前後の記憶、昨日観たテレビ、今週一週間の仕事内容、家族のこと、学生時代のこと、云々。思いつく限りは思い出せた。うん、大丈夫だ、記憶はしっかりしている。ただ、どんな記憶を消したのかは思い出せなかった。それは当然のことで、消した記憶を思い出せるはずがない。
 気分は良かった。自分がどんな記憶を消したのか気になるが、記憶消去施術を行った医師には守秘義務があるし、気にしても仕方がない。
 次の日は三連休の初日だった。僕は新宿に出て、行きつけのゲーセンに入った。最近流行りの脳波コントロールゲームのコックピットに乗り込んで、敵機を撃破していく。今日は調子がいい。僕は気分を良くして、後ろを振り返った。ゲーム待ちの観客が何人かいた。見知った顔はいなかった。それで僕は、先ほどまでの良い気分が沈んでいった。おかしい、と思った。僕は特定の誰かに対して、振り返った気がしたからだ。
 連休の中日からは、同僚が勧めてくれた一泊の北海道旅行へ行く予定だ。
 朝、東京駅のリニア乗り場に着くと、《つばさ》は今まさに発進しようとしていた。急いで、無人コンビニから何個かお菓子を袋に詰め、リニアに飛び乗る。てきとうな自由席に座り、息を落ち着かせてから、お菓子の袋を広げた。
「あれ?」
 袋の中にチョコが入っていた。おかしい。何でチョコなんて買ってしまったのだろう。僕はチョコが苦手なはずなのに。
 気象管理庁が予告した通り、札幌は晴れだった。僕はレンタカーに乗り込んだ。僕は車を運転するのが好きで、観光地では色んなところを車で周る。
 夜になり、僕は札幌近くの展望台まで車で登った。駐車場で車を降りて、札幌の夜景を眺める。夜の札幌の展望は美しかった。が、僕はもう、ドライブ中もずっと感じていた身体のうずきを抑えることができなかった。
 左手が、さみしい。
 肩もさみしかった。それから、何もくすぐらない頬や、風の匂いしかしない鼻や、温もりの感じない脇腹が、さみしかった。
 僕は宿泊するホテルへ向かうためレンタカーを運転しながら、誓約書の注意書きを思い出していた。
「記憶というものは他の記憶とリンクするものです。あなたの消したい記憶を完全に消去できるわけではありません」
 それを読んだ僕に対して、あの太鼓腹の医者は口の端を釣り上げたのだった。
「安心したまえ。君の消したい根本の記憶は、完全に消してあげるから」
 ホテルの部屋に着くと、ホログラムメッセージが届いていた。デスクの上で、レターホログラムがくるくる回っている。送信元は、僕自身。僕は僕自身に対して、メッセージを送ったらしい。「開く」を指で押すと、ホログラムが僕の顔に切り替わった。そして僕の顔をしたホログラムは、しゃべり始めた。
「僕から、かつて僕だった君へ。僕は死ぬことにした。愛する人と死別した僕には、もはや生きる目的はない。けれど、僕が自殺すれば、家族や知人にそれなりに迷惑をかけてしまうだろう。だから僕は、記憶を消すことにした。記憶消去施術のことは、家族や周りの人間に伝えてある。誰にも迷惑はかからない。
 いや、一人だけ迷惑がかかる人間がいる。これを見ているかつての僕、つまり君自身だ。佳奈との記憶を消された君は、もう僕ではない。そして、八年間もの記憶が欠損した君は、もはや君自身ですらない。悪いとは思うけれどね、僕が死ぬためには仕方がなかったんだ。僕はもう、色んなことに疲れてしまったんだ。とにかく、かつての僕にあてたメッセージは以上だ。さようなら」
                                 (了)

  神様の禁則
                                 佐藤亮

 授業参観日はいつだっていやだ。小学校の参観日の案内を持って帰ると、うちのパパたちは必ず「二人で行くからね」と答える。
 僕は小さくため息をつく。
「龍太のところのパパはかっこいいよね」
 そう言われるのはそーちゃんの方だ。筋肉質で髪の毛は短くて、めっちゃ背が高い。
「龍太のパパってすごい美人だね」
 もう一人のパパであるりっちゃんのことを友達のお母さん方はまるで芸能人を見るような目で見ている。
 僕のパパたちはそーちゃんとりっちゃんの二人だ。パパが二人だから当然ママはいない。
 同性結婚というやつらしい。
 僕は二人の子供だ。しかも養子ではなく、本当の男二人の子供なのだ。iPS細胞から精子と卵子を作れるようになって、世界で初めて男同士の細胞から受精卵ができた。そして生まれた子供が僕だ。
 そーちゃん♂×りっちゃん♂=僕
 僕が生まれたときはマスコミが大騒ぎだったらしい。今でも時々、男同士から生まれた子供は宗教的に認められないとか言われる。じゃあ、生まれた僕はどうしたいい?
 ただでもマスコミで取り上げられた有名人のパパ達が二人で参観日に来ると、いつも他のお母さん方がざわつく。そしてかすかに、でも何度も僕の名前がつぶやかれる。僕の後頭部は視線を感じて熱気を帯びたとても妙な感じがする。
 僕の気持ちも知らないで、そーちゃんとりっちゃんは男同士、ぴったりと寄り添っている。そして僕が授業を受けているのを真剣に見ている。

「あ、龍太パパス」
 隣の席の桃羽ちゃんは、うちのパパたちをパパスと呼ぶ。パパスはパパたち、っていう意味らしいけどそーちゃんは、
「スペイン語でパパスはイモだからな」
 とすねる。でも、桃羽ちゃんがうちに遊びにくると一番かわいがるのもそーちゃんだ。
 桃羽ちゃんは時々うちに遊びに来る。問題児の親同士なので仲が良い。
「いいよね、龍太んちは二人も来て」
 桃羽ちゃんは授業中、こっそりそーちゃんを見て、悲しそうな目をする。桃羽ちゃんのママは授業参観には来ていない。病気でずっと入院中なのだ。
「桃羽ちゃん、じゃあ答えて下さい」
「はい」
 桃羽ちゃんは難なく答える。本当は飛び級で大学に行ける能力があるのに、桃羽ちゃんは自分の希望で小学生をやっている。

 僕はそーちゃんとりっちゃんの男性二人からの遺伝子をもらっているけど、桃羽ちゃんは、ママの遺伝子しか持っていない。でも単純なコピーであるクローンでもない。
 『超自己』と言われる、自分のiPS細胞から作った精子と卵子を掛け合わせてできた自分×自分という『超自己』の子供だ。近親婚のように、遺伝子病が増幅されやすくて絶対禁止とされている。
 ママ♀×ママ♀=桃羽ちゃん
 でも、桃羽ちゃんのママが禁則を破って『超自己』を作ってしまった。自分で『超自己』を妊娠して生まれたのが桃羽ちゃんだ。
 しかも生まれてきた桃羽ちゃんが、ものすごい天才だったので、さらに事態はややこしくなってしまったらしい。
 『超自己』はたくさん障害を持って生まれる可能性も高いのだけど、超天才児も生まれる場合がある。最初に禁則を破って生まれたのが超天才児だったので、みんなは困ってしまったのだ。
 僕や桃羽ちゃんのような、iPS細胞による禁則を破って生まれた子供は第一世代(F1)と呼ばれている。同性同士や自分の遺伝子同士を掛け合わせたりした子供達は自然界には存在しない。
 動物実験では、禁則破りのF1は短命だったり問題が多いと言われている。だから僕らは命をかけて実験をしているようなものだ。
 桃羽ちゃんは天才なので、分からないことをよく教えてもらう。
「僕は同性愛者から、まるで神様の贈り物みたいに思われているよ」
「そうだよね、同性愛者でも子供が出来るんだからね」
「桃羽ちゃんはどうなの?」
「私のは良いウワサがないね。非公式に発展途上国が天才を作る計画とか、軍事目的の魔女開発とか。遺伝的にハイリスクの『超自己』に、まともな話はないねえ」

 そーちゃんとりっちゃんは寄り添って僕らの授業を見ている。本当は存在しない僕たちの授業参観。僕らは生き続けることで神様に挑戦している。
                                 (了)

 「若手」
                                 安部浩太郎

 港を望むオープンテラスカフェで、新作のレイヤーパンケーキを大口で頬張りながら、親友の琉絆空(るきあ)がため息まじりにこぼした。
「やっぱさー、こういうのってタイムリミットがあるじゃない? そりゃ仕事も頑張りたいよ? でもさー、あせるなっていうのも無理な話でしょ」
「仕事きついの?」
 毎度の話題だから、魅留音菜(みるおな)としてもとくに深刻ぶることなく、軽い調子で訊く。
「もちろんきついけど、でもすっごい楽しいの。最近やっといろいろ任せてもらえるようになってきたんだもん。これからってところなのにさー、産休とってる場合じゃないんだよねー」
 言いながら、琉絆空はテンポよくフォークを口に運んでいく。この分だと、また来月あたりからダイエットだのなんだのと騒ぎだすのだろう。
「凍結しとけば? いま安いよ」
 魅留音菜が提案すると、琉絆空は「それも考えた」と大きくうなずいた。
「たしかに三千円くらいどうにでもなるけどさー、いくら卵子が健康でも、産むのが二十年後とかになってみ? 体がついてこないでしょ」
「んー……」
 魅留音菜は腕を組んだ。たしかに二十年となると厳しいかもしれない。自身、三年前に初産を経験した。年齢的にもまだまだ余裕があったからよかったけれど、二十年後もあの痛みに耐えられるかと問われれば、少し考えてしまう。以前よりだいぶ緩和されたと聞くが、それにしたって注射を三本同時に打たれたような激痛が数時間も続くのだから、やはり体力は重要だ。
「実際さー、すでに老化はじまってきてると思うんだよね。この辺とかカサカサでやばいもん」琉絆空が太ももをさする。
「そんなことないって。ぜんぜんきれいじゃん」
 お世辞でなく言った。ミニスカートからすらりと伸びた足は、同性から見ても健康的で美しい。
「いや、ほんとにやばいの。そろそろミニもきついかなーって。膝がさー、ボトックスでも効かなくなってきちゃって」
 それは魅留音菜も同様だった。ここ一、二年で代謝が極端に落ちた。いくらコンビニで手軽に打てるとはいえ、さすがに毎週のように買い求めている余裕はない。
「魅留音菜は二人目とか産んじゃうわけ?」
 訊かれたので、「じつは、今年中にはって思ってるんだー」と答えた。思わず頬がゆるんでしまう。
「うそ。前と一緒のところ?」
「ううん。今回は別のバンク。いいのが入ったって先週メール来たから」
「またヨーロッパ系?」
「今度はアフリカ」
「アフリカ? なんで?」
「オリンピック観てたらさ、アスリートもいいなーって思っちゃって。三つ子作って金銀銅獲れたら最高じゃない?」
 三兄弟で表彰台独占。七年前に水泳では事例があるが、陸上ではまだだれも成し得ていない。
「三つ子? そんな簡単に作れるの?」琉絆空が目を丸くする。
「ちょっと操作すればすぐらしいよ」
「男と女って選べるの?」
「もちろん。十人までならクリックひとつだって」なぜか魅留音菜が胸を張る。
「どっちにするの?」
「もちろん男。百メートルで八秒台出させたいんだよね」
 そのために、少し奮発してスプリンタータイプのものを予約した。
「そっかー。でも一気に男の子三人も産んじゃったら、世話大変じゃない?」
「もう一台買えばなんとかなるでしょ」
 去年購入した家事ロボは、炊事洗濯はもちろん、保育園の送り迎えまでしてくれる。
「ちゃんと考えてるんだねー。でも三つ子かー。いいなー。やっぱりわたしも産んどこうかなー」
 琉絆空がまたも大きなため息をついたので、魅留音菜は努めて明るく言った。
「とにかくさ、お互い五十になったばっかりなんだし、じっくり考えればいいって」
                                 (了)

  数学のきらいなおんなのこ
                                 ふかぼりみほ

 毬夜は、数学がきらいだ。
 こんなことやったってどうなるの?
 宿題の途中で、教科書を放り投げた。
 こんなときは、boyfriendに電話をかける。

 毬夜のboyfriendは理系だ。
 数学が得意だ。
 おまけにコンビニで買うサラダが嫌いだ。

 毬夜がコンビニのビニル袋を提げてboyfriendの部屋へ行くと、文句を言うのだ。
 コンビニで買うサラダは、死んだ野菜だ。

 毬夜は、別に彼のために買ってきたのではないので、気にしないで食べた。
 野菜も摂らなきゃなって、毬夜だって思うのだ。

 毬夜はベッドの上でゴロゴロしながら、boyfriendが数学の問題を解いてゆくのを見ていた。
 解答を書く空欄が、手品みたいに、鮮やかに埋められてゆく。
 掛けてる眼鏡のセンスは悪いけど、好き、って思う瞬間だ。

 boyfriendは、問題集を閉じると、毬夜に手渡した。
 よくそんな死んだ野菜食べられるな。

 毬夜は、boyfriendにぎゅっと抱きついて、小鳥の囀る程度のキスをしてあげた。
 そんなときboyfriendは、たいていギョッとして、数分間動けなくなる。

 自分からは手ひとつ握れない男。
 指一本さえ握れない男。
 指一本触れられない男。

 やさいにいきてるとかしんでるってあるの?
 どーせはじめっからみんなしんでるんだよ。
 サラダなんて、死後数時間たった、ミイラじゃん。
 しんでからどんくらいたったかなんて。
 そんでそれで、新鮮かどうかなんて?

 それどーでもよくない?
 
 毬夜は、今が大事だ。
 数学なんてできなくても、他にできることは幾らでもある。

 毬夜とboyfriendは、お散歩に出かけた。
 歩くことは、心を落ち着かせるからいい。
 とboyfriendは言う。
 せろとにん、が、出るんだって。

 そうなんだあ。ふうん。

 毬夜は、頭がからっぽだ。
 毬夜は、時々、自分の頭が軽いなって思う。
 なんだか、何んにも入ってないかも。
 なんだか、何んにも感じないかも。
 毬夜って、なんだろ?

 考えるなよ。考えるな。
 boyfriendが言った。

 いつもそう言うんだ。頭がいいんだね。
 毬夜のboyfriend、理系。
 頭がいいんだ。理系。頭がいいんだ。
 毬夜のboyfriend、理、系、
 頭、が、いいだ、り、けい、あた、ま、が、い、い……ん…だ……ね

 あーあ、止まったよ。あともう少しだったのに。止まっちゃうと運ぶのが大変なんだよなあ。自分で歩いてくれりゃあ、手間が省けるのに。

 毬夜のboyfriendは、毬夜を引き摺って運んで、大学の工学科研究室の専用焼却炉に放り込んだ。とても高温で何んでも焼く。

 また失敗?
 boyfriendのfriendと出くわした。

 失敗。
 わたしってなんだろ、とか言い出したら終わりだね。
 安いの買うからだよ。
 ポンコツ。
                                  (了)

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